12月の落語
【 ジェイ教育セミナー大手前校 中森 】
最近は季節を感じることが少なくなりましたが、とはいえ夏は暑く、冬は寒いのは変わりません。
どうせ寒いのが同じなら、日本の伝統を少しでも感じながら12月を過ごしてみてはいかがでしょう。
というわけで今日は、12月に関する落語のネタについて書いてみます。
・芝浜(しばはま)
あらすじ
腕はいいが酒飲みで仕事嫌いの魚屋の勝五郎は、妻と二人貧乏暮らし。ある早朝、勝五郎は妻に急き立てられて魚市場に向かう。しかし時間が早すぎてまだ魚市場は開いておらず、勝五郎は芝の浜辺で時間をつぶす。そこでたまたま大金の入った財布を見つけ、大喜び。仲間を集めて大宴会を開き、酔いつぶれる。
翌朝、二日酔いで目を覚ました勝五郎を、妻は宴会の支払いをどうするのかとしかり飛ばす。妻の話では、「財布を拾ったなんて、酔って夢でも見たのだろう」とのこと。自分の酒癖の悪さをを反省した勝五郎は心を入れ替え、酒を断って仕事に精を出す。
三年後の大晦日、りっぱに商売を成功させ、大きな店を営むまでになった勝五郎に、妻はある告白をする。実は三年前に勝五郎が財布を拾ったというのは現実だった。拾い物を盗んだことが役所に知られれば勝五郎が捕まってしまうと心配した妻は、勝五郎が酔いつぶれている間に、財布を落とし物として役所に届け、三年後の今日、落とし主が現れなかった財布が妻のもとに返されたというのだ。
勝五郎を騙したことを涙ながらに謝る妻を、勝五郎は責めることなく、逆に自分を真人間にしてくれたと礼を言う。「久しぶりに酒をどうぞ」と妻は酒を勧め、勝五郎も杯を手に取るが、「…よそう、また夢になるといけねえ」
数ある落語のネタの中でも、とりわけドラマチックな噺。年末の落語会で立川談志が演じるのが恒例となっていたことや、5代目三遊亭圓楽が生前最後に演じたことでも有名です。
・文七元結(ぶんしちもっとい)
あらすじ
長兵衛はギャンブル好き。妻子が止めるのも聞かず、かさんだ借金を返すためにと、またギャンブル場に足を運ぶ。いつものように負けて帰ってくると、家に娘のお久はおらず、妻は泣いている。話を聞くと、お久は借金返済のために自分から身売りをしたのだという。娘を引き取った店の女将は、親孝行なお久に免じて、長兵衛に五十両の大金を貸し付け、大晦日までに返済すればお久はそのまま返すという。
五十両を手にした長兵衛は、その帰り道、吾妻橋から身を投げようとする男を見つけ、思いとどまらせる。話を聞くと、文七というその男は、近江屋という大店の奉公人。その日はお使いでお屋敷の旦那から五十両を集金したのだが、そのお金をどこかに落としてしまい、途方に暮れていたという。長兵衛は手元の五十両を文七に無理やり押し付け、逃げるように家に帰る。
翌朝、五十両を失った長兵衛と妻とは大げんか。そこに、近江屋の主人がやってきていきさつを話し、五十両を長兵衛に渡す。さらに長兵衛の心意気に感心した主人は、身売りをした孝行娘のお久を引き受けて長兵衛の家に返し、一家は抱き合って泣いて喜ぶ。
のちに孝行娘のお久と奉公人の文七とは結婚し、二人で元結屋を開いた。店は末永く繁盛したという。
「元結」は女性の髪を整えるための紙製のこより紐のこと。江戸時代に実在した桜井文七という人物と、その文七が始めた元結屋が、この噺の人物名のモデルとなっています。
五十両の大金だろうと、困っている人がいたらぽんと差し出してしまうきっぷの良さは、いかにも宵越しの金は持たない江戸っ子らしい感じがありますが、それにしても流石に不自然では……、と思う人が多かったのでしょう。多くの落語家によって、登場人物の行動の動機が様々に解釈され、アレンジされて演じられています。
ちなみに、「芝浜」も「文七元結」も、明治期の天才落語家、三遊亭圓朝(さんゆうてい えんちょう)が創作した噺だそうです。
ここまで江戸の落語の話ばかりしていましたが、関西、上方でも落語は大人気です。
姫路といえば、忘れてはいけない落語家がいます。人間国宝、桂米朝です。この桂米朝、旧制姫路中学(現在の姫路西高校)の卒業生なのです。
惜しまれながら2015年に亡くなった桂米朝。上方落語が衰退する一方だった時代に、さまざまなネタを収集し、文字だけしか残っていないものも研究・再現して数々の名作を復活させ、「上方落語中興の祖」と言われた落語家でした。
米朝の十八番として有名な大ネタ「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」は、絵本「じごくのそうべえ」としても知られています。
現在でもCDやDVDで米朝落語は視聴できます。演目が多い落語家なので、どのネタを視聴するか迷ってしまいますが、十二月にふさわしく、除夜の鐘を題材とした「除夜の雪」などいかがでしょう。しんみりとした余韻の残るいい話です。年末年始の楽しみとして、米朝落語に触れてみてはいかがでしょうか。