その教科書捨てるの、ちょっと待った


【 ジェイ教育セミナー大津校 中森 】


アール・ヌーヴォーという言葉を聞いたことはありますか。

アール・ヌーヴォーとは、19世紀末から20世紀初頭にかけて起こった芸術の運動です。

イギリスに始まる製品の均質化・工業化に対抗して、装飾性や植物などの自然の曲線を重視する改革運動が、絵画、彫刻やガラス細工、家具や建築などさまざまな面で盛り上がり、これら一連の運動が「アール・ヌーヴォー」の名で呼ばれました。

1900年のパリ万博で最高潮を迎えたこの運動は、残念ながら第一次世界大戦の社会不安の中でしぼんでいったのですが、現代のデザインにも大きな影響を与えた運動であり、いまだに作品や作家の根強いファンも多くいます。


アール・ヌーヴォーの有名な作家には、ガラス工芸のエミール・ガレや、演劇のポスターで有名なアルフォンス・ミュシャなどがいますが、こうした作家にインスピレーションを与えたのは浮世絵などの日本の作品でした。

そう、実は当時のヨーロッパ画壇では浮世絵などの日本文化が大ブームだったのです。そのブームを「ジャポニスム」と呼びます。ミュシャも日本の芸術品の収集をしていたといいます。ガレは水墨画的な手法をガラス器のデザインに取り入れ、ミュシャの描く植物には、浮世絵的な平面を生かしたデフォルメが見られます。

他にもゴッホの手による北斎の模写や、着物をまとった妻を描いたモネの作品など、西洋画に取り入れられた日本趣味を、中学校美術の教科書で見た覚えがある方も多いのではないでしょうか。


……と、ここまで読んできて、突然登場した「教科書」にびっくりした方もあるかもしれません。手元の教科書を急いで開いてみたという好奇心旺盛な方もおいででしょうか。(上記の「ジャポニスム」は、『美術 2・3上』P.30に掲載されています。「アール・ヌーヴォー」という言葉は、同じ『美術 2・3上』の年表のページに登場します。)

そう、今回のテーマは「教科書」です。

芸術の知識や教養を身につけるには、いろいろな本を読み、美術館に通い、様々な人名や用語を覚える……たしかにそういう面もありますが、中学校の美術の教科書には、こうした知識・教養の土台となる部分が、相当に幅広く、わかりやすく、掘り下げられて、記載されているのです。

私自身が、いろいろ本を読んだり調べたりした上で、のちに中学校の教科書を開いて驚いた経験があります。基本は全てここに詰まっていた……!と。


教科書の有用性は美術に限りません。中学校までの副教科の教材には、一生モノの役立ち情報が満載です。全国何百万人もの学習者に向けて、非常に丁寧に作り上げられた教科書、捨ててしまうのはもったいないです。

今、芸術や音楽、スポーツに興味がないからといって、将来もそうだとは限りません。いま苦手なことが、逆に一生の趣味や仕事となることさえあるのです。


また、高校生でさらに発展的な学習に進む主要五教科は、高校で使用する教科書や資料集が、大学生や社会人になったときにも、あらたな学習を志した時の最良の手引きとなります。

(ここをご覧になっている高校生のみなさん、覚えておいてください!)


今まさに教科書を捨てる準備をしていらっしゃる卒業生のみなさん、ちょっとその手を止めてみてはいかがでしょうか。また、お子様の本棚の片づけをお手伝いするお父さまお母さまは、そのついでに教科書をちょっと開いてみると、その充実ぶりにびっくりするかもしれませんよ。

この文章を読んで、教科書を開いてみたくなった方が一人でもいらっしゃったら嬉しいなあ、と思います。