鬼滅の果実


 【 ジェイ教育セミナー手柄駅東校 久米田 】


5月の連休を利用し、天台宗総本山である比叡山延暦寺に行ってまいりました。なお、延暦寺とは比叡山内の境内に点在する約100の堂宇の総称であり、一棟の建造物を指すものではありません。東塔(とうどう)、西塔(さいとう)、横川(よかわ)の三つに区分され、それぞれに本堂がありますが、今回は東堂のみ参詣いたしました。根本中堂の不滅の法灯に手を合わせ、開運の梵鐘を撞き、日本一大きい最澄伝教大師の像と自撮りし、般若心経クリアファイルを土産に買いました。気のせいかもしれませんが、なにやら徳を積んだ気がいたします。


ところで、比叡山が京都の鬼門にあたり、いわゆる鬼門除けに延暦寺が建てられたという話をご存知でしょうか。鬼門とは鬼の出入りする門の意味で、北東を指し、古来よりこれを忌避しています。

参道脇の開創由来を記した看板には、平安京の予定地を点検した藤原小黒麻呂から「この所は四神相応(東に河川の青龍、南に耕地の朱雀、西に往還の白虎、北に山の玄武を置く好条件)の地なり、しかれども東北に当たりて一高岳あり。東北はこれ鬼門なり、たまたま四神相応の霊地なりといえども、百僚怖畏の難なきにあらず、遷都の儀式、よろしく天察あるべし」との上奏を受け、桓武天皇は平安京の鬼門にあたる比叡山に寺院造立の詔を下した、とありました。

王城を霊的に守護し国家鎮護を担う延暦寺は、以後全国の俊英を集め、仏教教学の道場となり、浄土宗の法然、浄土真宗の親鸞、時宗の一遍、法華宗の日蓮、臨済宗の栄西、曹洞宗の道元など錚々たる人物がこの地で修行し、全国に仏教を広めていきます。


さて、京の鬼門の方角には比叡山延暦寺のほか、陰陽師の安倍晴明を祀った晴明神社など、悪鬼が都に入り込むことを防ぐ建物が存在します。また、京都御所の「猿が辻」も鬼門封じとして有名で、御所の北東角の外壁を凹ませ、神猿の像を置いて、鬼の侵入を防いでいます。角(かど)を取ることで、鬼の角(つの)を取り、鬼の力を弱めるのだとか。

このシステムは姫路城の縄張りにも取り入れられており、内堀・外堀の北東部分は丸くカーブをえがいて角をつくらず、石垣もわざと欠けさせ角を取り、「桃」を象った瓦を載せて鬼門を封じ、さらに姫路城北東約3kmの地には歳徳神社を建立し、鬼門除けとしています。

ちなみに「桃」は古来より破邪の力を秘めているとされ、伊邪那岐(いざなぎ)が黄泉平坂(よもつひらさか)で追いすがる亡者どもに桃を投げつけて追い払ったこと(『古事記』)や、西王母の蟠桃園の桃を食べて不老不死の力を手に入れた孫悟空(『西遊記』)など、事例には事欠きません。

中国の『山海経』にも、「滄海(東海)のなかに度朔山(どさくさん)があり、山上には大桃木がある。三千里にもわたって曲がりくねり、枝の間の東北方を鬼門といい、そこは萬鬼が出入りするところとなっている。山上には二神人がいて(中略)、萬鬼をみはっていた。悪害をもたらす鬼は葦の縄で縛ってとらえ、虎の餌食とした。そこで黄帝は礼をつくり、時をみはからって、桃の木でつくった大きな人形を門に立て、門戸に二神人と虎を描いた絵を祀り、葦の縄をかけて凶魅(きょうみ)を防いだ。」という記述があります。

このように、生命力の象徴として桃は珍重され、鬼(もともと死者を指し、亡くなることを「鬼籍に入る」という言い回しもあります)を斥けるものとして使われてきており、岡山県の観光大使「桃太郎」が鬼退治に出かけるのはこのあたりからきているようです。なお、物語冒頭の「川から流れてきた大きな桃を切ったら中に赤ん坊がいた」というおなじみの登場以外にも、地方や時代によっては「桃を食べて若返ったおじいさんとおばあさんの間に桃太郎が生まれた」といった、仙桃の不老性を色濃く残したバージョンもあるようです。


さて、平安時代に大ブームとなった陰陽五行説では、方角に対応する神様や季節、色、果ては内臓や果物なども細かく設定されています。たとえば、北には玄武(季節は冬・色は黒)、東の青龍(春・青)、南の朱雀(夏・赤)、西は白虎(秋・白)が相応し、ここから「青春」という言葉や、「北原白秋」というペンネームが生まれたのはよく知られているところです。

方角に十二支を対応させることはご存知の方も多いと思います。北から時計回りに「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」を配置すると、鬼がやってくるといわれる鬼門は北東の丑寅(うしとら)の方角にあたります。鬼が牛の角を生やし、虎の毛皮の腰巻をつけているのはこのためです。


ちなみに桃は西に対応する果物です。十二支の配置を見ると、西にあたるのは申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)となり、ちょうど桃太郎の家来と一致することがわかります。『桃太郎』が成立していく中で、陰陽五行説が取り入れられたようです。なぜ熊や狼のようなもっと強い動物にきびだんごをやらなかったのかずっと不思議でしたが、桃太郎が家来を選ぶときにはそんな縛りがあったのですね。


もうすぐ夏本番。桃のおいしい季節がやってきます。みなさん、鬼門の方角を向いて、もりもり食べましょう。