平安京ラブストーリー


 【 ジェイ教育セミナー手柄駅東校 久米田 】


今年のNHK大河ドラマ『光る君へ』、みなさんはご覧になりましたか?『源氏物語』を書いた紫式部が主人公ということで、どのようなやんごとなきみやびな世界が繰り広げられるのか楽しみにしていたのですが、初回放送をうっかり見逃してしまいました。見た人からは「紫式部の母親が藤原氏のボンボンに斬殺されて、これから式部の凄惨な復讐劇が始まるでぇ!」と聞かされたのですが、本当でしょうか。なんか思っていたのとずいぶん違うのですが。


ところで、舞台となる平安時代は、現代とは恋愛事情が大きく異なっていたようです。この時代の男女は、直に顔を合わせる機会がほとんどありません。男は評判(「音」)を聞きつけると、気になる女性の邸に出向いて垣根や御簾の隙間から女性をのぞき見(「垣間見(かいまみ)」※1)、恋心を募らせます。ついでラブレター(「懸想(けそう)文(ぶみ)」)を送り、受け取った女性も和歌で返事(「返歌(へんか)」「答(いら)へ」)。返歌は親や歌の上手な女房が代わりにすることもあったようです。手紙のやりとりで両想いになると男性が女性のもとを訪れ、その後、三日続けて通えば正式な結婚となります。当時は現代と違い、夫婦は同居せず男性が女性の家に通うことがほとんどでした。これを「妻(つま)問(ど)ひ婚(こん)」といいます。そのため、古文で「通ふ」とあれば、夫が妻のもとに行く、という意味になります。

現代の我々からすると、じれったい手紙の往還が続くかと思えば、一度会ってしまえば後は三日でスピード結婚、と色々とおかしく感じますが、今でもふとしたときに、古代より受け継がれてきた日本人の魂を感じる瞬間があります。


「和歌」の形式で最も多いのが、五・七・五・七・七の三十一音構成です。この五七のリズムは日本人の感性に刷り込まれているようで、同じく三十一音の短歌(※2)や、五・七・五の俳句以外にも、様々な作品に取り入れられています。鎌倉時代の『平家物語』の冒頭部分は「祇園精舎の(7)鐘の声(5)、諸行無常の(7)響きあり(5)」といった七五調ですし、「お魚(4)くわえた(4)ドラ猫(4)追っかけて(5)、はだしで(4)かけてく(4)ゆかいな(4)サザエさん(5)」などのように、4+4+4=12音(5音+7音)と見ると、実は五・七・五となっている変則的なものまであります。(※3)

このリズムは頭に残りやすいので、無味乾燥になりがちな暗記に積極的に利用するといいでしょう。たとえば、中国の歴代王朝を順に並べると「殷 周 秦 漢 三国 晋 南北朝 隋 唐 五代 宋 元 明 清 中華民国 中華人民共和国」となります。(※4)

これを七五調の『もしもしかめよ』のメロディーで歌ってみましょう。


♪いーんしゅーうしーんかーん(もしもし、かめよ)

 さーんごーくしん(かめさんよ)

 なーんぼくちょうずい(世界のうちで)

 とうごだい(おまえほど)

 そうげんみんしん(歩みののろい)

 ちゅうかみんこく(ものはない)

 ちゅーうかじんみんきょーわこく(どうしてそんなにのろいのか)🎵


いかがでしょうか。ちなみに「森のくまさん」「おたまじゃくしはカエルの子」「サザエさん」などのメロディーでもいけます。

わたしはこれで大学に合格しました。


【注釈】

※1:現代の日本では、他人の家の中をのぞくと、迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反で逮捕されることがあります。やめましょう。

※2:和歌は、長歌(五七、五七、…五七七)・短歌・旋頭歌(五七七、五七七)・片歌(五七七)などの総称です。近世までに書かれたものを「和歌」、明治以降に書かれたものを「短歌」と呼ぶこともあります。

※3:拗音(「きゃ・きゅ・きょ」など、小さい「ゃゅょ」がついた音)、長音(のばす音)、促音(ちいさい「っ」の音)はそれぞれ一音で数えます。例えば、チュ/ー/リ/ッ/プ で5音です。

※4:周と秦の間に500年以上続いた「春秋戦国時代」だったり、漢は「前漢・新・後漢」だったり、三国は「魏・呉・蜀」だったり、南北朝は「北魏・西魏・東魏・北斉・北周」の北朝と「宋・斉・梁・陳」の南朝だったり、五代は「後梁・後唐・後晋・後漢・後周」のことだったりしますが、割愛しています。