君の名は


【 ジェイ教育セミナー手柄駅東校 久米田 】


100均ショップで必ずやることがあります。印鑑コーナーで自分の名前を探すことです。でも一度も見つけたことがありません。「久米」「久保田」「米田」はあるのに「久米田」がない。納得いかない。そんなに需要がないのかと『名字由来net』で調べてみると―…全国に1800人ほどでした。まさか個人的に憧れている名字No.1の纐纈(こうけつ)さんの5200人よりも少ないとは。日本一多い「佐藤」さんは183万人(高知県+島根県+鳥取県人口と同数)なので、わずか1000分の一。1クメダ=1000サトウ。いいですねぇ、佐藤さんは。間違いなくDA●SOにもSe●iaにもC●n★Doにもあります。鈴木さん(177万人)や高橋さん(138万人)ほどじゃないにしても、もっとメジャーな名前がよかった。気軽に改姓できるものならしてみたいですが、


18世紀、フランスでは民衆の娯楽として公開処刑が行われていました。パリ大学医学部教授のジョセフ・ギヨタンJoseph  Guillotin(1738~1814)は、罪人をできるだけ苦しめずに処刑する装置を構想し、その設計を外科医アントワーヌ・ルイに依頼します。「ボワ・ド・ジャスティス(正義の柱)」と名付けられたこの装置は、のちに設計者の名前から「ルイゼット」と呼ばれるようになります。ギヨタンはこの人道的処刑装置の普及に努め、議会に導入を働きかけた結果、フランス全土で使用されることになりました。そこから、今度は「ギヨティーヌ(guillotine)」と呼ばれることになる処刑装置の英語式発音がギロチンです。処刑装置に名前をつけられたギヨタンは、装置の呼び名を変えるよう訴えますが、一旦定着してしまった名前の変更は難しく、結局ギヨタンの親族は「エポニム」に改姓することに。

というくらいの事情がないと姓を変えるのは難しいかな、と思います。


改名といえば、あるニュース番組で脚本家の三谷幸喜氏が、『鎌倉殿の十三人』には採用しなかったけれどこんな面白い話があるんですよ、と源義経のエピソードを紹介していました。

平家滅亡後、兄の頼朝の許可を得ないまま朝廷から義経が官位を受けたため、頼朝との間に亀裂が入り、謀反人として逃亡している最中のことです。摂家の九条兼実が、兼実の子「良経」と義経が同音だったことから、逃亡犯の義経の名を「義行(よしゆき)」に勝手に変えてしまいます。もちろん義経は自分の名前が変えられたことは知りません。しばらくしてから、「義行」は「よく行く=うまく逃げる」ことに通じるから捕らえられないのだ!という意見が出たので「義顕(よしあき=よく現れる)」にまた勝手に改名。この改名のためというわけでもないでしょうが、その後、奥州まで逃げていった義経が、庇護を求めた藤原泰衡に襲撃され、妻子とともに自害したことは皆さんがよく知る通りです。


現代の日本では、名前を変えるというのは、なかなか難しい(「王子様」という名前がイヤで改名した事例のように、よほど日常生活に不都合がある名前でないと法的に認められない)ようですが、昔はわりとよくある話でした。アイヌには赤ん坊に病魔が近寄らないようにあえて汚い幼名(「オソマ(うんこ)」「シオンタク(うんこのかたまり)」「セタシ(犬のうんこ)」など)をつける風習がありましたし、奈良時代後期の宇佐八幡宮神託事件(※1)では、和気清麻呂が改名させられています。

分国法の「朝倉孝景条々」で有名な戦国武将の朝倉孝景に至っては、荘園侵犯の報復として行われた興福寺の名籠め(※2)から逃れるために、教景(のりかげ)から孝景(たかかげ)に自ら改名したようです。


ちなみに『名字由来net』によると、私と相性のいい名字は「吉田」さん(女性)らしいです。写真を持っているだけでも運気が上がるそうなので、今日から「吉田沙保里(※3)」さんをスマホの待ち受け画面にしておきます。


※1 宇佐八幡宮神託事件:769年、宇佐八幡宮からの「道鏡(称徳天皇の寵愛が深い僧侶)を皇位につけるべし」という神託に端を発する事件。事実確認のために宇佐八幡宮に派遣された和気清麻呂が正反対の託宣を持ち帰ったため、道鏡の天皇即位の道は絶たれた。称徳天皇は激怒し、和気清麻呂(わけのきよまろ)を別部穢麻呂(わけべのきたなまろ)に改名させ、地方に左遷した。個人的に好きな日本史エピソードのひとつ。

※2 名籠め:寺に反抗的な人物の罪状と氏名を紙片に記して寺内の堂に納め、その人物を呪詛し、仏罰を与えるという呪術。そんなデスノートがあるはずないわ、と侮るなかれ。呪詛された人物が治めていた地域の村人130人が次々と亡くなるという恐ろしい記録も残っている。なぜか当の本人は無事だったようですが。

※3 吉田沙保里:女子レスリング個人で世界大会16連覇、個人戦206連勝を記録し、「霊長類最強女子」の異名を持つ。2012年には13大会連続世界一でギネス世界記録認定、国民栄誉賞受賞を成し遂げた。強い。